Abusan’s Journey

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FiiO M11 Plus LTD Aluminum Alloy レビュー

8月20日にFiiO M11 Plus LTD Aluminum Alloyを購入し、約1週間後に手元へ届きました。初めてのAndroid搭載DAPです。
元々、手元のポータブルオーディオ環境としては高校時代に今は亡きD-Snapを利用したのが始まりです。そこからスマホで聞くようになり、再度DAPを購入したのはアイドルマスター ミリオンライブ コラボモデルのPioneer XDP-20 MLが登場したことがきっかけです。同じくコラボモデルのPioneer SE-CH9T MLと組み合わせて使っていましたが、楽曲取り込みやプレイリスト操作が煩わしく、バッテリーの持ちも悪かったため次第にスマホへ戻っていきました。

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Pioneer XDP-20 MLとAcoustune HS1300SS

このブログでも書いた通り、DAPスマホとして利用する目的でLG V60 ThinQ 5Gを購入しましたが、使い勝手の問題やXDP-20との音質比較でDAPスマホとしては微妙でしたのでDAPではなくPCで音楽を聴くことが多くなったのも事実です。

abusan3225.hatenablog.jp

LGのスマホDACをQuad構成にしているなど音に対して少し力を入れた印象がありましたが、実際に聞いてみるとスマホとしての制約から抜け出せていない感がありました。しかしAndroidスマホとしての利便性は捨てがたいものがあり、次にDAPを購入するならAndroid搭載DAPを購入しようとは思いました。再生している楽曲情報の共有、ストリーミングサービスの利用、使い勝手の良い音楽プレーヤーアプリの利用など、Androidであることのメリットは非常に大きいんですよね。
そんなこんなでDAPを探す旅に出たわけですが、私がDAPを探した時期が非常に悪い時期でして、スマホで聞く人が増えたため入門機と位置付けられる機種の減少、AKMの火災により各メーカーが新作DAPの投入を遅らせているなどなど、悪い条件が重なり完全に今は時期が悪い状態でして、価格comの新製品には2~3個しか登録が無いという状態でした。
既存のAndroid搭載DAPはバージョンが古いものが多く、SoCもSnapdragon 400番台というもので快適な操作性は期待できないものばかりでした。そんな中、FiiOが確保していたAK4497EQを使って限定モデルを作るという情報があり、聞くところによればAndroidは10でSoCはSnapdragon 660というスペック的にはサブスマホクラスなのでちょっと気になりじゃありませんか。そして気が付いたら8月20日に予約開始したと同時に購入していました。

開封

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こちらM11 Plus LTDの外箱です。10万円を超える商品だけあって箱の質感もなかなかの良さですね。

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一皮むくとFiiOロゴとご対面

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こちらがM11 Plus LTD本体となっています。Android DAPは重くて大きいとは聞いていたのですが、いざ目の前に出してみると存在感がすごいですね。なんてことはない黒い筐体なんですがね。特に厚みがなかなかのもので、Huawei P20の約2.5倍くらいの厚みがあります。

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親の顔より見たAndroid

基本構成

思いっきりAndroidです。GPSやカメラ、指紋認証などが無いこと以外の基本的な機能はスマホと変わりません。パターンロックもできるし、9月27日時点での最新バージョンなら画面ダブルタップでスリープから復帰もできます。

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基本的なハードウェア構成はSoCにSnapdragon 660を採用しメモリは4GBでストレージは64GBと、ここだけ見ると本当に3万円以下のローエンドからローミドルあたりのスマホそのまんまです。
スマホと違うのは音に関する部分の構成や設計。DACはAK4497EQを2基、アンプはTHX AAA-78を2基採用し、基板設計や電源の設計も音を考えて設計されています。基本スペックから考えると明らかに割高な10万円という価格や、スマホとしては規格外なサイズや重量は全て音を追求するためのものです。

中身を全部説明すると長くなっちゃうので公式サイト見てください。
www.fiio.jp

レビュー

さてレビューしていきます。
環境はAcoustune HS1300SSをそのまま使っています。バランス接続はHS1300SSにARC53を組み合わせたものと、Pioneer SE-CH9Tに純正の2.5mm 4極ケーブルを使いました。
再生アプリは純正のFiiO Musicの他にPowerampとUSB Audio Player PRO(UAAP)を使用しました。サンプリングレート表示機能によりFiiO MusicとUAAPはビットパーフェクト再生ができていると推測されますが、Powerampはアップサンプリングを回避できませんでした。

音質

ずっと使っていたXDP-20は少し角が丸く暖かい音だったのとは対照的な、はっきりと音の一つ一つをしっかり鳴らしているクールな音という印象です。解像度が高くはっきりと鳴らす感じで優等生タイプというのはこういう音を言うんだろうなと思います。特に不自然な脚色がされているわけでもなく、あくまでもAndroid OSから送られてきた音源のデータを粛々とアナログ信号に変換して出力するという仕事に徹しています。もちろん歪みやノイズとは無縁です。最初は少し音が硬いような印象がありましたが、150時間ほど経過すると硬さは感じなくなり、より繊細な部分まで鳴るようになりました。

音楽再生時の仕様について

FiiO M11 Plus LTDはAndroid OSを採用してますが、独自にカスタムされているためOS側のリサンプリングを回避したビットパーフェクト再生に対応しています。
それを確認する機能としてステータスバーにサンプリングレートを表示する機能があります。FiiOの公式サイトにはこう解説されています。

この表示はM11Plusが最終的に出力する内容が表示されるようになっており、必ずしも再生しているソースフォーマットと一致するとは限りません。例えばDSD変換機能を有効にしているとその内容が反映された表示となります。

再生しているファイルのサンプリングレートとM11側で表示されるサンプリングレートが一致していればビットパーフェクト再生ができているという解釈で問題ないだろうということで、この記事ではM11 Plusでビットパーフェクト再生ができていると言える条件をそう解釈することにします。

ビットパーフェクト再生される条件ですが、おそらくAndroidのAudioTrackに音源をデコードしたデータをそのまま渡すような実装になっていれば大丈夫なようです。foobar2000でAudioTrackを使用する設定で再生すると、44.1kHz, 96kHzの両方で再生している音源と同じサンプリングレートがステータスバーに表示されました。ただ、192kHzの音源は96kHzと表示されてしまったため、foobar2000の中で何らかの処理が行われているのか、それともAndroid OS側でリサンプリングが行われているようです。
OpenSL ESを使ったらどうなるのかも試しましたがぷつぷつと途切れてしまい正常に再生できるアプリは見つかりませんでした。これはM11 Plus側の問題だと思われます。そのため、もしOpenSL ESでの再生のみに対応しているアプリだと正常に再生できないことになります。

いくつかの音楽プレーヤーアプリを試しましたが、音質にこだわっていると謳うアプリよりも、何の変哲もないただの音楽プレイヤーアプリのほうがビットパーフェクト再生ができるようです。先に書いたようにAudioTrackにデータをそのまま渡す実装であれば何の問題もないのでしょう。
表示されるサンプリングレートからビットパーフェクト再生ができかどうかさえ確認できれば、あとは操作性などを考慮して選べば問題ありません。

試した音楽プレーヤーアプリ

FiiO Music

純正アプリです。純正なのでM11 Plus LTDとの相性が最も良いアプリです。
操作性はお世辞にも良いとは言えません。動作自体も少しもっさりしています。特にPCなどでm3u形式のプレイリストを作っている場合、FiiO Musicはプレイリスト周りの操作があまり良くないことに加え、m3u形式のプレイリスト読み込みが得意ではないようなので使い勝手が良くありません。とりあえず楽曲を放り込んでランダムで聞く、特定のアルバムだけを再生するなどの用途なら問題ないでしょう。

Poweramp

操作性に優れた音楽プレーヤーアプリです。Androidスマホハイレゾ再生ができますが、リサンプラーを外すことができないためビットパーフェクト再生はできません。
オーディオ出力を4種類の中から選ぶことができます。AudioTrack出力もありますが、おそらくスマホでの互換性の問題があるためか必ず48kHzにリサンプリングされてしまいます。Poweramp独自のハイレゾ出力を使用するとダウンサンプリングを回避してアップサンプリングのみにすることができます。操作性を重視するならこれを選んでおけば問題ありません。
地味な利点ですがwavファイルでもリプレイゲインを解釈してくれます。PC版foobar2000で書き込んだリプレイゲイン情報を解釈してくれました。

USB Audio Player PROの挙動

通称UAAPです。元々はスマホに接続したUSB DACでの再生に特化したアプリですが、内蔵DACを認識してビットパーフェクト再生させることができます。
M11 Plusでも問題なく44.1kHz, 96kHz, 192khzの音源でビットパーフェクト再生ができました。バッファサイズの設定をちゃんとしてやらないとエラーが出て再生できないという現象に悩まされますが、たいていは小さいバッファサイズを設定してやれば大丈夫です。バッファサイズの設定は2個所あるため注意してください。
Android標準とハイレゾダイレクトという2つのドライバを切り替えることができますが、どちらでもビットパーフェクト再生ができることを確認しました。試した中では純正アプリに最も近い挙動をしてくれます。
操作性はPowerampと比べて2歩くらい劣ります。m3uプレイリストの取り込みもうまくいかないことがあります。
こちらもPowerampと同じくwavファイルのリプレイゲイン情報を解釈してくれます。

foobar2000

シンプルな音楽プレーヤーアプリです。PCソフトに同名のものがありますが開発元は同じです。
OpenSL ESを使用する設定がありますが、使用すると他のアプリと同じく正常に再生されません。使用しない状態なら44.1kHz, 96kHzの音源はビットパーフェクト再生ができることが確認できました。192kHzの音源は96khzで再生されてしまいます。UAAPと挙動が違う点が気になりますが、UAAPよりも操作性は良いので選択する理由はあると思います。
こちらもPowerampと同じくwavファイルのリプレイゲイン情報を解釈してくれます。

バランス接続

M11 Plus LTDは2.5mm 4極と4.4mm 5極のバランス接続に対応しています。2.5mmはSE-CH9T + 純正バランスケーブルで、4.4mmはHS1300SS + ARC53で聞いてみました。
アンプからの出力そのものが変わるため比べづらいところはあるのですが(出力インピーダンスは1Ω以下→2Ω以下に、出力は206mW→588mWになる)、全体的にクリア感が増したような印象を受けましたが、HS1300SSのレビューでも書いた通り、その差はほとんどわからないというレベルだと思います。また、音源によって違いの大きさも変わる印象があり、少し古い音源であったり、音の分離をあまり考慮していない音源だと効果を体感しやすい印象でした。その効果自体も左右に引き伸ばされるように分離感が増してしまい、ボーカルの定位に僅かな不自然さを感じるようになった楽曲もあります。
SE-CH9Tの純正バランスケーブルはAmazonのアウトレットで4000円、ARC53は2万円弱という価格を考えると費用対効果は悪いと感じましたし、その分のお金をイヤホン本体やDAPにそのお金を回したほうが良いと思います。ケーブルを交換して違いを楽しむという趣味を否定するわけではありませんが、バランス接続じゃないと嫌などとは思わないですね。少なくともM11 Plus LTDはアンバランス接続であっても良い音質で満足度は高いです。

携帯性

この価格帯のDAPとしては普通なんじゃないかなと思います。スマホと比べると携帯性は劣りますが、持ち運べないというレベルでもありません。

バッテリー

連続再生で約11時間ほど再生できましたので公称スペックは満たしていると言えます。使用するアプリによるとは思いますが、アンバランス接続で10時間は問題ないでしょう。
充電はQC4.0 quick chargeに対応しているということもありハイエンドスマホ並みになりました。

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さすがにゲーミングスマホのような1時間でフル充電ということはできませんが、こちらも公称スペックの3時間ほどで充電できます。
80%を超えると充電速度が落ちていくのはバッテリー保護などの機能が入っているためだと思われます。

操作性

ハードウェア部分の操作性は操作ボタンの反対側に音量操作が来るのが少し気になりますが、それ以外は特に問題ありません。
ソフトウェアはAndroidですのでスマホと同じように操作できます。さすがに数世代前のミドルレンジSoCなのでサクサクで超快適というわけにはいきませんがDAPとしては十分だと思います。

拡張性

AndroidでPlayストアも対応しているためサードパーティ製アプリを使えることが大きな利点です。私がインストールしているアプリは下記になります。

まだやってはいませんが、その気になればYouTubeやソシャゲをインストールして遊ぶことも可能です。Androidなので開発者オプションも使えますし、あまりお勧めはできませんがroot化も可能だろうと思います。

※2021年10月7日 追記
ちょうどアイドルマスター SideM GROWING STARS(サイスタ)がサービス開始したのでインストールしてみましたが、OpenSL ESが使われているためか正常に音声が再生されませんでした。やはりM11 Plus LTDのカスタムAndroidはOpenSL ESでの出力に問題を抱えているようです。AndroidのゲームはOpenSL ESが主流のため、ソシャゲはスペック以前の問題で難しいものが多くなると思います。

総評

正直なところ音楽を聴くためだけに10万円という価格はどうなんだろうかと思っていましたが、FiiO M11 Plus LTDの出来には価格も含めて非常に満足しています。特にAndroidスマホと同等の操作性が手に入るという点が私にとっては非常に大きな利点です。XDP-20よりも解像度不足を感じるのにLG V60をDAPスマホの運用から外せなかったのはPowerampによる快適さがありました。M11 Plus LTDは音質と操作性、拡張性を両立できます。音質も非常に満足でしたし、10万円を払う価値はあったと思います。
惜しい点を挙げるとすれば純正のFiiO Musicアプリの出来が期待するほどではなかったことですね。Androidなので他の音楽プレーヤーアプリを使うことで回避できますが、これが独自OSだったり特定のAndroidアプリしか使えないという仕様であれば買っていなかったでしょう。
LTDという製品名の通り限定版ですので現時点で市場に出ている在庫が全てです。DACをESSに変えて出すという話もあるので急ぐ必要は無いと思いますが、どうしてもAKMのDACが載っているDAPが今すぐ欲しいのであれば買って損はしないと思います。

以上、FiiO M11 Plus LTDのレビューでした。

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